JASCCは、多職種で連携し、科学する支持医療をめざします。

代表理事あいさつ

理事長からの挨拶とメッセージ

日本がんサポーティブケア学会 理事長 佐伯 俊昭

佐伯 俊昭

初代理事長の田村和夫先生が、日本がんサポーティブケア学会(JASCC)を日本の支持医療の研究と実践・普及を促進する学会として育てられました。確かにゼロからの出発ではありましたが、2019年には会員数も1000名を超え、日本のがん患者さんの様々なニーズに答えられるがん医療を日本の隅々まで普及させることを願いながら、役員と会員が協力し合い成長させている学会であると思います。さて、がん患者のニーズだけに拘ることは、ある意味で危険なこともあるのではないでしょうか。つまり、有害反応との戦い、そして社会における自己の存在についても悩んでいる患者さんを目の前にすると何かをしなければならない気持ちになりますが、だからと言って慣習的でエビデンスの少ないケアを提供することに慎重でなければなりません。藁をもつかみたい気持ちで様々な期待感を患者は持ってはいないでしょうか。支持医療もエビデンスに基づいたものでなければならず、日本の文化、生活習慣に特有の支持医療の開発が必要です。エビデンスのみによらず、医療者が真摯に患者の声を聞き、理解を深め、また対話を通して問題解決に向けた新しい物語を創り出すこと。つまり科学的根拠に基づく医療(エビデンスベースドメディシン)を補完するものが必要です。学会の成長に伴い、理事、各種委員会委員、各部会員は2期目を迎えています。また、学会のホームページのリニューアルも行いました。挨拶にかえまして、この2年間をともに振り返りながら継続、かつ進歩を遂げている本学会活動をご紹介します。

1.学会運営

本学会は、他学会と異なり領域ごとに部会を設置し、各部会を中心に学会運営が行われています。当初、16部会で始まりましたが、漢方部会が新しく加わり17部会となりました。また皮膚障害部会はOnco-dermatology部会と名称を変更しています。さらに今まで取り上げられることの少なかったOnco-cardiology, Onco-nephrology, Patient recorded outcome(PRO), Integration of oncology and supportive/palliative careの4つのワーキンググループ(WG)が設置され活動を始めています。
また、部会活動が活発になるにつれ、エビデンスの創出、診療指針の作成が行われるようになり、その内容を評価する委員会が必要となり、ガイドライン委員会(内富庸介委員長)が新たに設置されました。さらに、学会の国際化にむけて、国際委員会(齋藤光江委員長)が設置されました。この他、選挙管理委員会、教育委員会、新規医療情報委員会など既存の委員会の活動目的を精査し、具体的な活動目的にあった委員会名に再編しております。
本学会の5年以内の課題として、会員による役員選挙のために選挙管理委員会が設置され、また「がん支持医療認定制度(仮称)」の実施するために、将来検討委員会のなかで検討しています。現時点で本学会は12委員会、17部会、4WGで構成されています。

会員数

会員数は毎年順調に増加しており、医師の会員数の増加、および医師以外の医療職、特に薬学系・看護系の専門職の参加が多い傾向にあります。また本学会は専門医制度を持たない多職種がかかわる学会ですが、本学会の趣旨に賛同いただける方がそれなりにおられることを示唆しており、今後も会員数の増加が期待されます。

学術集会

2016年第1回学術集会(相羽惠介会長、慈恵医科大学)開催時、340名でしたが、2017年第2回学術集会(佐伯俊昭会長、さいたま市)開催時で647名と増加しています。2018年は、前理事長の田村和夫先生が第3回の学術集会を福岡で開催され、MASCCとの協力関係を益々発展させました。第4回学術総会は、佐藤温先生の会長のもと、東北地方の多くの方々の参加を得ることが出来、1000名以上の参加者を迎えることが出来ました。第5回は日本緩和医療学会、サイコオンコロジー学会とJASCCの3学会合同で開催されました。JASCCの会長は高橋孝郎先生で、3学会会長はJASCC理事の内富庸介先生でした。新型コロナウイルス感染の影響にて完全Web形式による開催となりましたが、多くの参加者がライブ講演会を含めて画期的な集会と成りました。2021年は大崎昭彦先生が会長をされ、完全Webにての開催に向けて準備が開始されました。また2022年は宇和川匠先生が会長をされ、2023年には齋藤光江会長のもとMASCCとの合同開催に向けて準備をしております。

支持・緩和医療領域における臨床研究

日本医療研究開発機構(AMED)は、革新的がん医療実用化事業で6つある領域のうち、領域5において始めて「科学的根拠に基づくがんの支持療法/緩和療法の開発に関する研究」として、支持・緩和医療に関する研究に対する研究支援にも協力しています。既に本学会の部会が中心となり、研究が進行中です。エビデンスの少ない領域で、また研究指針が確立していない領域であり、班長をはじめ班員が苦労しながらプロトコール作成・実施に努力しているところです。また、支持・緩和領域の研究ポリシーの策定にあたっては、2017年度の2次公募において全田貞幹(総務委員会副委員長)のプロジェクトが採択されました。さらに、国立がん研究センター内にある「支持療法開発センター(J-SUPPORT)」と協力して、支持医療分野での臨床研究体制を支援しています。
部会が中心となり実施している臨床研究一覧〔2020年8月時点〕

悪性腫瘍に伴う悪液質の標準治療の確立 京都府公立大学法人京都府立医科大学 髙山 浩一
外来がんリハビリテーションプログラムの開発に関する研究 学校法人慶應義塾慶應義塾大学 辻 哲也
支持/緩和治療領域研究の方法論確立に関する研究 国立研究開発法人国立がん研究センター 全田 貞幹

診療指針の発刊

JASCC支持医療ガイドシリーズ
  • 「がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き」2017年版
    (神経障害部会:平山泰生部会長、吉田陽一郎副部会長)
  • 「がん薬物療法に伴う皮膚障害アトラス&マネジメント」
    (皮膚障害部会:山崎直也部会長、平川聡史副部会長)
  • 「Q&Aで学ぶ リンパ浮腫の診療」
    (リンパ浮腫部会: 作田裕美会長、小川佳宏副会長)
  • 「粘膜障害マネジメントの手引き」
    (粘膜炎部会:近津大地会長、唐澤久美子副会長)
    日本がんサポーティブケア学会・日本がん口腔支持療法学会編集
  • 「がん悪液質ハンドブック」
    監修:髙山浩一、内藤立曉、田村和夫
  • 「高齢者がん医療Q&A総論」
    厚生労働省科学研究費補助金「高齢者がん診療指針に必要な整備に関する研究」
    日本がんサポーティブケア学会・研究班・高齢者がん医療コンソーシアム(PDFのみ)
JASCC支持医療ガイド翻訳シリーズ
  • 「口腔ケアガイダンス第1版日本語版」
    (粘膜炎部会:近津大地会長、唐澤久美子副会長)
  • 「がん悪液質:機序と治療の進歩 初版日本語版」
    (Cachexia 部会:髙山浩一会長、東口髙志副会長)
JPOSがん医療におけるこころのケアガイドラインシリーズ
  • 「がん患者におけるせん妄ガイドライン2019年版」
    日本サイコオンコロジー学会・日本がんサポーティブケア学会編集

支持・緩和医療領域の基礎研究 ~precision medicine

支持・緩和医療領域における病態解明のための基礎研究は、がん治療と同様、新規の薬剤・医療機器の開発にとって重要です。新たに発足した新規医療情報委員会(関根郁夫委員長)では、免疫関連副作用、がんゲノム医療、新規薬剤に焦点を当て、正確な情報を収集し、広く会員への情報共有を計画しております。支持・緩和医療領域もがん治療のみならず支持医療でのprecision medicineの時代にしていかなければなりません。それには基礎研究者の養成と研究費の本領域への投入が必要です。

2. 支持・緩和医療に関する用語についての整理
~「支持医療」の普及に向けて

国の第2期がん対策推進計画以降「がんと診断されてからの緩和ケア」が重点施策として盛り込まれています。「緩和ケア」とは何を指すのでしょうか?あいまいな茫漠とした言葉で、終末期医療と混同され、医学用語としては問題があります。
当学会では、そのミッション・ビジョンを検討するにあたり、「基本理念」において「がん医療における包括的な支持療法(以下、支持療法)の教育、研究、臨床を通して…」と記載し、運営方針として7つをあげています。現在も、我々はサポーティブケア(SC)の適切な日本語訳はないと考えます。しかしながら、診療の内容は「がん患者のニーズに合う包括的な支持療法」を意味していると考えます。そこで、「緩和医療」に対峙するものとして、「支持医療」をこれからも継続して発信、普及させていきたいと思います。特に2020年の日本緩和医療学会との合同学術大会では、JASCCの特徴が出ており、緩和医療学会の活動と異なることが示されたと考えます。世界的な認識でも、palliative care とsupportive careの共通点と相違点を理解しつつ、それぞれの学会が協力して活動しています。JASCCは、ESMOの考え方(Cherny NI et al. Ann Oncol 2003; 14: 1335-1337)に沿って、supportive careは「がんのすべてのstage(trajectory、軌跡)における患者・家族をサポートする医療」とし、一方、palliative care(PC)は「治癒が望めなくなった段階でのサポート」と考えています。これらの間には当然オーバーラップがあり、スペクトラムの医療と考える。すなわち、その間に線を引くことは難しいと考えます。したがって、がん医療の両輪のうち、がんをターゲットとする「がん治療」とそれを支える支持療法、緩和治療は、「支持・緩和医療」というnamingで使用するのが相応しいと考えます。事実、欧米のがん関連学会や国際がんサポーティブケア学会(MASCC)の学術集会では、「supportive/palliative care」として取り扱われています。第2期がん対策推進計画の「がんと診断されてからの緩和ケア」における緩和ケアは、「ケア」の広範な意味ではなく、医療機関、行政(介護・福祉)がかかわる「ケア」であると考えるのが妥当で、上記定義した「支持・緩和医療」がもっともふさわしいと考えています。JASCCのワーキンググループの一つとしてIntegration of oncology and palliative care(中島貴子WG長)があります。まさに、この課題を重要課題として取り上げ、今後の活動につなげて行きます。

3. 国際化に向けての活動

2016年から開始されたMASCCの学術集会中に日本からの参加者のために「JASCC seminar」を継続して開催しています。また2017年から開始しているMASCC(Washington DC)の学術集会時のプログラムとしてMASCC-JASCC合同シンポジウムを継続して開催しています。現在、国際委員会が中心となり、プログラム立案から参加しており、毎年MASCCの学術総会から連絡があります。さらに、2023年のMASCCとJASCC合同学術総会でも、素晴らしいテーマにてシンポジウムを企画して参ります。

4. 課題と展望

田村和夫初代理事長の功績は大きく、学会としての活動の継続性は当然のことながら、さらに発展するためには、優秀な人材の発掘が必要です。幸い、現在でも多くの職種の研究者、診療担当者が参加していますが、患者さんのニーズは多様で、まだまだ隙間の医療があると思います。部会が中心の学会ではりますが、部会の存在意義を十分に消化していない部会も複数あります。部会の活性化は勿論のこと、部会間の調整も必要です。これまでの課題と同じく、まずすべての部会が、①当該領域における手引書あるいはガイドラインを出すこと、②エビデンスの無い領域に対して他の学会や関係者と協力しながら課題解決に向けて研究体制をとること、③国民、医療者に対して正確な情報を発信すること、④がん診療連携拠点病院を中心に、がん治療と支持・緩和医療の実践が、同時にがんと診断されたときからできる体制ができるように、支持・緩和医療に興味ある仲間を増やし、各施設でそれぞれのresourceに応じた体制がとれるように支援すること。
最後に、2020年から理事の増員により、役員の若返りも図りました。前理事長の田村和夫先生も顧問としてJASCCを支えてくださいますが、多職種の優秀で高いモチベーションの在る方は、是非役員として当学会を牽引していただきたいと考えます。これからも益々のご支援をお願い申し上げます。

2020年8月31日

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