利益相反に関する指針
日本がんサポーティブケア学会
倫理・利益相反委員会
I. 序文
一般社団法人日本がんサポーティブケア学会(以下 JASCC)はがん治療の進歩に伴う支持療法に関する国内外の研究を通し、支持療法の進歩・普及に貢献するために、関連団体との連絡、連携を図る事業を行い、もってがんに対する治療成績の向上を通して、公共の福祉に貢献することを目的としている。
JASCC学術集会・刊行物などで発表される研究においては、がん患者を対象とした医薬品、医療機器を用いた研究が多い。このような、医療技術の開発に際しては、産学連携活動が重要であり、会員が特定の企業・団体等と共同で研究を行う機会も増えてきている。
その結果、教育・研究という学術機関としての責任と、産学連携活動に伴い生じる個人が得る利益とが衝突・相反する状態が必然的・不可避的に発生する。こうした状態が「利益相反(conflict of interest:COI)」と呼ばれるものであり、この利益相反状態を学術機関が組織として管理していくことが、産学連携活動を推進する上で乗り越えていかなければならない重要な課題とされている。
会員に利益相反状態が生じることは避けられないものであるが、利益相反状態が深刻な場合には、関連する研究への助成金の配分、研究計画や発表される結果に公正さが保証されない事態も想定する必要がある。また、たとえ厳密に科学的に行われた研究でも、利益相反状態が足かせとなり、正当な評価がなされない場合もありうる。
このため、JASCCの事業実施においても、会員に対して利益相反に関する指針を明確に示し、産学連携活動の公正さを確保した上で、研究の助成や研究成果の公表を行える仕組みを作る必要がある。この利益相反に関する指針により、会員の利益相反状態が適切に管理され、公正かつ有益な産学連携活動が推進されれば幸いである。
II. 対象者
利益相反状態が生じる可能性がある以下の対象者に対し、本指針が適用される。
- JASCC会員
- JASCC事務局
- JASCCで発表する者
- JASCCの理事会、委員会、部会に出席する者
III. 対象となる活動
JASCCが関わるすべての事業における活動に対して、本指針を適用する。 特に、JASCCの学術集会、シンポジウム及び講演会での発表、および論文、図書などでの発表を行う研究者には、がんの予防・診断・治療に関する臨床研究のすべてに、本指針が遵守されていることが求められる。JASCC会員に対して教育的講演を行う場合や、市民に対して公開講座などを行う場合は、社会的影響力が強いことから、その演者には特段の本指針遵守が求められる。
IV. 開示・公開すべき事項
対象者は、自身における以下の1.〜10.の事項で、別に定める基準を超える場合には、利益相反の状況を所定の様式に従い、自己申告によって正確な状況を開示する義務を負うものとする。また、対象者は、その配偶者、一親等以内の親族、または収入・財産を共有する者における以下の1.〜3.の事項で、別に定める基準を超える場合には、その正確な状況を学会に申告する義務を負うものとする。なお、自己申告および申告された内容については、申告者本人が責任を持つものとする。具体的な開示・公開方法は、対象活動に応じて別に細則に定める。
- 企業や営利を目的とした団体の役員、顧問
- 株式会社の保有
- 企業や営利を目的とした団体からの特許権使用料
- 企業や営利を目的とした団体から、会議の出席(発表)に対し、研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当(講演料など)
- 企業や営利を目的とした団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料
- 企業や営利を目的とした団体が提供する研究費
- 訴訟等に際して企業や営利を目的とした団体から支払われる顧問料及び謝礼
- 企業や営利を目的とした団体からの研究員等の受け入れ
- 企業や営利を目的とした団体が提供する寄付講座
- その他の報酬(研究とは直接無関係な、旅行、贈答品など)
V. 利益相反状態の回避
1)全ての対象者が回避すべきこと
研究の結果の公表は、純粋に科学的な判断、あるいは公共の利益に基づいて行われるべきである。JASCC 会員は、臨床研究の結果を会議・論文などで発表する、あるいは発表しないという決定や、臨床研究の結果とその解釈といった本質的な発表内容について、その研究の資金提供者・企業の恣意的な意図に影響されてはならず、また影響を避けられないような契約書を締結してはならない。
2)がん臨床研究の試験責任者が回避すべきこと
臨床研究(臨床試験を含む)の計画・実施に決定権を持つ試験責任者(多施設臨床研究における各施設の責任医師は該当しない)は、次の利益相反状態にないものが選出されるべきであり、また選出後もこれらの利益相反状態となることを回避すべきである。
- 臨床研究を依頼する企業の株の保有
- 臨床研究の結果から得られる製品・技術の特許料・特許権の獲得
- 臨床研究を依頼する企業や営利を目的とした団体の役員、理事、顧問(無償の科学的な顧問は除く)
但し、1.~3.に該当する研究者であっても、当該臨床研究を計画・実行する上で必要不可欠の人材であり、かつ当該臨床研究が国際的にも極めて重要な意義をもつような場合には、当該臨床研究の試験責任医師に就任することは可能とする。
VI. 実施方法
1)会員の役割
会員は研究成果を学術集会等で発表する場合、当該研究実施に関わる利益相反状態を適切に開示する義務を負うものとする。開示については細則に従い所定の書式にて行なう。本指針に反する事態が生じた場合には、倫理・利益相反委員会にて審議し、理事会に上申する。
2)役員等の役割
JASCCの会長・理事・監事・会長並びに各種委員会委員長、部会長は学会に関わるすべての事業活動に対して重要な役割と責務を担っており、当該事業に関わる利益相反状況については、就任した時点で所定の書式に従い自己申告を行なう義務を負うものとする。 理事会は、役員(理事長・理事・監事)ならびに学術大会長がJASCCのすべての事業を遂行する上で、深刻な利益相反状態が生じた場合、或いは利益相反の自己申告が不適切と認めた場合、倫理・利益相反委員会に諮問し、答申に基づいて改善措置などを指示することができる。
委員長、部会長は、それぞれが関与する学会事業に関して、その実施が、本指針に沿ったものであることを検証し、本指針に反する事態が生じた場合には、速やかに事態の改善策を検討する。なお、これらの対処については倫理・利益相反委員会で審議し、答申に基づいて理事会承認を得て実施する。なお倫理委員が審議の対象となる場合、その倫理・利益相反委員は倫理・利益相反委員会に参加することはできないこととする。
3)不服の申立
前記1)ないし2)号により改善の指示や差し止め処置を受けた者は、JASCCに対し、不服申立をすることができる。JASCCはこれを受理した場合、速やかに倫理・利益相反委員会において再審議し、理事会の協議を経て、その結果を不服申立者に通知する。
VII. 指針違反者への処置と説明責任
1)指針違反者への措置
JASCC理事会は、学会が別に定める規則により本指針に違反する行為に関して審議する権限を有し、審議の結果、重大な遵守不履行に該当すると判断した場合には、その遵守不履行の程度に応じて一定期間、次の措置を取ることができる。
- JASCCが開催するすべての集会での発表の禁止
- JASCCの刊行物への論文等の掲載の禁止
- JASCCの学術集会の会長就任の禁止
- JASCCの理事会、委員会、部会への参加の禁止
- JASCCの理事・評議員の除名、あるいは理事・評議員になることの禁止
- JASCC会員の除名、あるいは会員になることの禁止
2)不服の申立
被措置者は、JASCCに対し、不服申立をすることができる。JASCCがこれを受理したときは、倫理・利益相反委員会において誠実に再審理を行い、理事会の協議を経て、その結果を被措置者に通知する。
3)説明責任
JASCCは、自ら関与する場にて発表された臨床研究に、本指針の遵守に重大な違反があると判断した場合、倫理・利益相反委員会および理事会の協議を経て、社会への説明責任を果たす。
VIII. 細則の制定
JASCCは本指針を実際に運用するために必要な細則を制定することができる。
IX. 施行日および改正方法
本指針は2016年9月4日より施行する。本指針は、社会的影響や産学連携に関する法令の改変などから、個々の事例によって一部に変更が必要となることが予想される。JASCC倫理・利益相反委員会は理事会・評議員会・総会の決議を経て、本指針を合同で審議し改正することができる。