代表理事あいさつ

日本がんサポーティブケア学会 理事長 田村和夫

写真2015年3月、一般社団法人として日本がんサポーティブケア学会(The Japanese Association of Supportive Care in Cancer、JASCC)を設立しました。ここでは、設立の経緯と当学会のミッションについて述べたいと思います。

1981年以降日本人の死亡原因のトップはがんであり、急速な高齢化とあいまって高齢者のがんが増加し、すでにがんによる死亡者の80%が65歳以上の高齢者となっています。がんの治療には、がんを標的とした治療である外科手術、放射線療法、化学療法とこれらのmodalityと同等あるいはそれ以上に重要なものに支持療法があります。がんを標的とした治療に伴う副作用あるいは、がんの浸潤による局所・全身性の症状、paraneoplastic syndromeを適正に処置・治療することは、患者の症状緩和ばかりでなく、がん治療をスケジュール通りに完遂させることにより治癒率の向上、進行・再発がんにあっては延命をもたらすことができます。一方、増え続ける高齢者がんに対しては、生理的な心身の機能の低下に加え、老年症候群をしばしば合併していることもあって、治療にあたっては適切に支持療法を組み込んだ綿密な計画が求められます。

JASCC設立の基盤となった研究組織は、化学療法に伴う悪心・嘔吐(chemotherapy-induced nausea and vomiting, CINV)の前向き全国調査を実施した「がんとCINVを考える会」と強力な化学療法に頻発する発熱性好中球減少症(febrile neutropenia, FN)の治療研究グループである日本FN研究会です。とくに、前者において2000名を超える症例の前向き登録研究を終え、2014年8月に終了する際に会員から支持療法に焦点をおいた学術団体を設立してはどうかとの意見が出ました。従来よりがんの支持療法はきわめて重要であるにもかかわらず、正面から取り組む学会が無いことが懸念されていたこともあり、設立に向けて動き始めたわけです。さらに、JASCCを設立するにいたったきっかけのもう一つは、Multinational Association of Supportive Care in Cancer (MASCC)の会員から支持療法に対して相談できる日本の学術団体が無いばかりかアジア地区でも相応の団体がなく、この種の活動の空白地域であると言われたこともあります。実際、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本放射線腫瘍学会をはじめとするがん治療関連学会、日本緩和医療学会、日本サイコオンコロジー学会などの緩和医療領域の学会が、支持療法についても学術活動を行っていますが、日本にはMASCCに相当する学会がありません。

こういった背景のもとに本学会が設立されました。その目的は、「がん患者に必要な支持療法について学術的活動を行う団体で、多職種が参画するチーム医療のもと、がん治療を安全で効果的に実施するための支持療法を発展させ、学際的・学術的研究を推進し、その実践と教育活動を通して国民の福祉に貢献することを目的とする」といたしました。本学会のネイミングに関しましては、MASCCに習い、Japanese Association of Supportive Care in Cancer としました。我々のミッションを実現するにあたって、「Association」の持つ意味を考えてみました。

学会活動は多岐にわたりますが、もっとも大きな役割は学術に関するところです。すなわち、主宰するがん関連の年次学術集会での報告や学会誌に掲載される論文は、他の学会や学術誌で発表されていない新しい知見を発表・掲載することが基本になっています。一方、支持療法については、CINVやFNなど一部の分野を除き大規模な前向き臨床試験によるエビデンスの高い新知見は乏しく、経験的な少数例の検討がなされ、それが「一般的によく実施される治療」として日常診療に応用されているところです。さらに悪液質や化学療法に伴う不妊などは、情報が限られているばかりでなく、専門的に取り組んでいる研究者が少ない分野もあります。

そういった日本の現状を鑑み、本学会の役割は、新知見を発表・検討する場であるとともに、エビデンスレベルの異なる情報を集積・解析し、当学会の支持療法委員会の各部会においてコンセンサスやガイドとなるものを検討し、今後の研究の方向性を医療者・国民に発信していく学術団体としての位置づけが大きいものと考えられます。 支持療法は、多職種が実践する分野であり、上記したように従来の学会とは役割の異なるところもあり、「学会」よりは「機構」といった呼び方も考えました。しかし、支持療法の分野においてもエビデンスの創出・発信は極めて重要であり、その実践・教育・周知を考えますと日本がんサポーティブケア学会がふさわしいネイミングであるとの結論に達しました。また、所属医療機関から学術集会や会議に参加する場合、「機構」よりは「学会」の方が出張申請がしやすいことにも配慮いたしました。

最後に、本学会はゼロからの出発であります。支持療法に興味ある方、貢献いただける方々の多くの参加をお待ちしています。みなさまのご意見をうかがいながら発展させていきたいと思いますので、ご協力をお願いします。

2015年4月